劇的に変わる子どもたち

次のグラフは191名の中学1年生の子供たちの記録です。この生徒たちは小学校4年生の時から非常に荒れ続けた子供たちでした。5年生、6年生の2年間は学年崩壊という状況だったのです。

彼らの100マス計算の取り組みでは、はじめは 子供たちも「勝った!」「負けた!」と互いのタイムの違いに騒いでいましたが、次第にそれも言わなくなっていきました。それは どの子も急速にタイムは縮んでいったからです。勝った、負けた、よりも各々が確実に変わる、それも急激に変わる事実に生徒たちの関心が移っていきました。タイムはそれほど劇的に変化しました。毎日10秒、20秒と縮み続けたのです。

 ここには5人の記録を載せましたが、1週間の取り組みの経過で191名の全部の生徒の型を表示はできません。しかしその全体を分類すると大体がこの5種類に分けることができます。全員の生徒がこのうちのどこかの形に入ると言う訳です。日々10秒から20秒、時には30秒という短縮ペースで進んでいきます。

 いずれにしても一週間前には想像もできなかった速さに自分たちは到達し、変化していくのでした。

グラフを作成し、子供たちに自分の変化していく様子を日々見せました。この効果は絶大でした。

無言でじっと見つめる子。「やったあ」とか「ウヲー!」と雄たけびを上げる子。短い反応なのですが、明らかに、深い何かを感じる子供たちの姿がありました。

「こんなに自分のタイムが変化していく!」「俺もできるようになる!」この事実は子供たちにとっては大変な発見だったのでした。

A君は学年でも最も遅い生徒でした。入学時に特別支援学級に入るかどうか、保護者と悩んだ生徒です。それに対してCさんは学年でもトップの生徒です。彼女はのどかな性格で計算そのものはそもそもそんなに早くありませんでしたが、思考力が優れていて誰からも一目置かれている生徒でした。

ところがA君は5日目にしてCさんの初めのタイムを超えたのです。

このことでA君は大きな自信を持ったに違いありません。

 1週間前には仰ぎ見ていたような友達の速さに自分が到達しているのです。

 「自分は変わる」

 「自分も“できる”ように変るのだ」という発見。

 これは今まで経験したことのない発見でした。

どの生徒も、この事実を見ることによって、彼ら一人一人は少なからぬ感動を覚えたのです。

 「変わる」という事は「伸びていく」という事、「成長し続けている」ということです。それは学校で何かを学ぶという行為の中で久しぶりに感じる、何かすがすがしい気持ち、これこそ彼らが学校に最も深く求めていたことだったのです。

このことを大げさに評価しすぎだと思うかもしれません。違うのです。この荒れていた学年は劇的に変わっていったのですが、あとから振り返って、この時の感動が生徒たちにとって「学年全体が荒れていた」という状態から彼ら全員が熱心に勉強に励む、そのように蘇る変化の分岐点であったと思われるのです。

「自分たちもできる」「やれば、できるように変わる」という認識が始まったのです。

2年間も学年が崩壊し続けた彼らだからこそ待ち続けたものだったのかもしれません。

中学校へ入学してきた当時、新入生として色々小さな問題は起きましたが保護者を呼ばねばならないような大事件は結局それほど起きませんでした。生活指導面で決して力で押さえつけたわけではありません。あれほど荒れた生徒たちだったのですが、子供たちの中には何か落ち着いた不思議な流れが生れていったのです。この生徒たちの記録は別途紹介します。

投稿者プロフィール

小河勝

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